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大阪高等裁判所 平成9年(行コ)6号 判決 1998年1月30日

兵庫県西宮市甲子園浜田町九番二一号

控訴人

澤瀉久明

右訴訟代理人弁護士

大音師建三

兵庫県西宮市江上町三番三五号

被控訴人

西宮税務署長 黒崎光

右指定代理人

森木田邦裕

西浦康文

中村光春

後藤利江

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

(主位的請求)

被控訴人が控訴人に対し、控訴人の平成三年度分の所得税について、平成五年六月一五日付でした再更正処分のうち、欠損金額二二〇〇万六七一八円、還付金額一五万二五〇〇円を超える部分を取り消す。

(予備的請求)

(一) 被控訴人が控訴人に対し、控訴人の平成三年度分の所得について、平成五年六月一五日付でした再更正処分のうち、総所得額三三八万九〇八二円、納付すべき税額七万六四〇〇円を超える部分を取り消す。

(二) 被控訴人が控訴人に対し、控訴人の平成三年度分の所得税について、平成五年六月一五日付でした更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

2  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

一  被控訴人

主文と同旨

第二事案の概要

一  事案の要旨

控訴人は、平成二年末に実父澤瀉久敬(以下「久敬」という。)から同人が営む不動産賃貸業の用に供していた原判決添付別表第一本件土地の明細記載の二〇筆の宅地(以下「本件土地」という。)の贈与を受け、平成三年から不動産賃貸業を営むようになったが、同年度の所得税の確定申告に当たり、同年中に本件土地の所有権移転登記を経由するに際し納付した登録免許税一五八九万〇三〇〇円を不動産所得の経費に計上して申告したところ、被控訴人から右登録免許税を経費に算入することはできないとして更正処分及び過少申告加算税賦課決定を受けた。そこで、控訴人は、異議申立をするとともに、同年中に兵庫県知事に納付した本件土地の不動産取得税二五三九万五八〇〇円も経費に算入されるべきであるとして更正の請求をしたところ、被控訴人は、右更正処分等を取消した上、平成五年六月一五日付で同一内容の更正処分および過少申告加算税賦課決定をし、更正の請求を理由がないとして棄却した。控訴人は、国税不服審判所に審査請求をしたが、裁決によって却下及び棄却されたので、本件訴訟において、主位的に審査請求額を超える部分、予備的に確定申告額を超える部分について、処分の取消を求めている。

これに対し、被控訴人は、控訴人が本件土地を久敬から贈与されたもので、無償行為であって収益活動ではないから控訴人主張の経費の発生する余地がなく、又、相続財産の前渡であるから、その登録免許税及び不動産取得税を控訴人の営む不動産賃貸業の不動産所得の経費と認めることはできないとして、処分が適法であると主張している。

二  前提となる事実

原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」の「二 争いのない事実等」(原判決二枚目裏六行目から同四枚目表一〇行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する

三  争点及び争点に関する当事者の主張

次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」の「三 争点」及び「四 争点についての当事者の主張」(原判決四枚目表末行から同六枚目裏八行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決五枚目表十行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「控訴人は、久敬から本件土地の贈与を受けたものであるから、収益活動ではなく、必要経費の生じる余地がない。」

2  同五枚目裏三行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「本件贈与は、次の点からみて、事業用財産の譲渡を目的とするものとはいえない。

(一) 控訴人は、久敬の営んでいた不動産賃貸業の青色事業専従者として、久敬から全権を委任され、専ら自己の判断で不動産賃貸に従事してきたのであるから、本件贈与の趣旨は控訴人に独立して不動産賃貸業を行わせ、控訴人の判断による経営ができるようにするためであるというのは理由がない。

(二) 控訴人は、久敬との間で、本件土地を控訴人が贈与を受ける代りに他の相続人に対し代償を提供することを話し合っており、本件贈与は、久敬の相続人の間の諸事情を考慮し、相続財産となる不動産のうち本件土地を予め控訴人に取得させておくためになされたのであって、久敬から控訴人に対する相続財産の前渡であると認められる。

(三) 控訴人は、久敬から、本件土地と同時に京都市北区衣笠開キ町の宅地建物、滋賀県蒲生郡蒲生町の雑種地、長野県北佐久郡軽井沢町の原野の贈与を受けている。これらの不動産は、久敬の不動産賃貸業と関係がない。そうすると、本件贈与は、久敬の学者としての地位及び名誉が障害となって、不動産賃貸業を積極的に行うことが困難であるために、その対策として行われたとはいえない。

(四) 本件贈与に伴う贈与税は一二億円以上に及んでいる。久敬が本件土地を会社に現物出資して譲渡所得税を負担し、その後の相続で相続人が相続税を負担する場合でも、これらは現物出資時と相続時と二度に分けて租税債務が発生するのであるから、納税の負担が軽減されることになるだけでなく、物納も認められている。久敬が本件土地を相当価格で控訴人に譲渡した場合でも、その売却代金が相続時まで久敬の下に相当程度残留するとは限らない。従って、控訴人は、一時に多額の贈与税を負担する方法が最良の選択ということにはならないのに、あえて高額の贈与税を納付する方法を選んだのである。

控訴人は、贈与税の納税のために、納税資金のほとんどを久敬から借り入れ、残りについては久敬を連帯保証人として久敬所有の土地を担保に提供して金融機関から借入れて納付した。控訴人は、それまで久敬の青色事業専従者として給与を得ていたが、本件贈与により新たに年間二〇〇〇万円前後の不動産収入得ることになったというものの、同時に贈与税を納めるために一二億円余りの債務を負うことになり、控訴人の営む不動産賃貸業の規模に照らし、年間所得の六〇倍という莫大な負債を抱え、控訴人の生活の安定のためとはいえないものであり、合理性がない。

不動産の賃貸を巡る紛争は、規模の大小を問わず発生するものであり、控訴人が紛争の処理をしているから積極的に不動産賃貸業を行っているということはできない。本件贈与後においても、久敬の不動産賃貸について訴訟が係属しており、控訴人が対処していたと推認されるから、訴訟に控訴人が関わるか否かは、本件贈与による不動産の移転と関係がないといえる。

(五) 本件贈与は、控訴人が久敬の不動産賃貸業を家業として承継するためであるということはできない。」

3  同六枚目裏四行目の次に行を改めて、次のとおり付加し、同五行目の冒頭の「3」を「4」と改める。「3 これを敷衍すると、次のとおりである。

(一) 久敬は、昭和五九年九月に妻澤瀉喜代子の死亡に伴って同人の営んでいた不動産賃貸業を承継したが、医学博士、文学博士、大学の名誉教授、日本学士院会員という立場から、賃借人との間で不動産の賃貸借を巡って紛争を生じることを避けていたため、借地人の賃料支払の遅滞があっても契約解除などを主張せず、効率的、積極的な不動産賃貸業を展開することができなかった。控訴人は、従前の職を辞して久敬の不動産賃貸業の専従者として右業務に従事してきたが、五年間の経験を経て不動産賃貸業の経営に自信を持つに至った。そして、控訴人は他に職がないので、安定的地位を築くために、久敬から事業の一部を承継して自ら不動産業を行うことにした。

したがって、本件贈与は、相続財産の前渡として行われたものではない。控訴人は、長男として、久敬が妻喜代子から承継した不動産賃貸業を澤瀉家の財産として後世に承継する必要があり、長男である控訴人が引き継ぐことは、控訴人はじめ相続人である控訴人の弟妹とも当然と考えており、些かの紛争もなかった。現に、久敬は、平成七年二月二六日に死亡したが、同年六月三日には遺産分割協議書が作成され、相続が円滑に行われた。本件贈与が行われたのは、相続の際の紛糾を懸念したのではなく、控訴人が自らの収入を確立し生活の安定を図る上で、不動産賃貸業を経営する必要があったためである。

控訴人は、本件贈与を受けたことにより、本件土地について、自らの経営判断で賃貸業務をすることができるようになったのであり、久敬の経営についての事業専従者とは立場が全く異なることになった。

控訴人は、久敬から、本件土地の贈与を受けて不動産賃貸業を積極的に展開し、賃料不払いの借地人に対し、契約を解除して、明渡請求などをしている。

控訴人は、京都市北区衣笠開キ町の宅地建物、滋賀県蒲生郡蒲生町の雑種地、長野県北佐久郡軽井沢町の原野を久敬から贈与を受けたが、これらは控訴人の不動産賃貸業の経営とは関係がないから、本件請求の対象にしていない。

(二) 久敬の不動産賃貸業を承継するために、株式会社を設立して久敬が本件土地を株式会社に現物出資することは、本件土地の評価が平成二年当時路線価で約一七億円と考えられていたため、久敬に約一〇億円の譲渡所得税が課せられた上、久敬には全額出資の株式会社の株式が残り、久敬の死亡の場合に控訴人その他の相続人が相続税を課税され、その相続額が約五億円と見込まれる。

控訴人が久敬から本件土地を買い受けることは、本件土地の時価が路線価の約二倍の約三四億円と評価されるので、久敬に約一〇億円の譲渡所得税が課せられた上、久敬に不動産売却代金が残り、久敬の死亡の場合に控訴人その他の相続人が約一七億円の相続税を課税される見込である。

控訴人が久敬から本件土地を相続によって取得することは、久敬の死亡という偶然に待たなければならず、積極的な事業の承継ができないから、選択の対象となりえない。

控訴人が久敬から本件土地の贈与を受けることは、贈与税の負担が約一二億円と高額であるが、平成二年当時贈与税に関して土地の評価は時価評価よりも低額であったため割安であり、その後に譲渡所得税、相続税を課税されないため、久敬及び控訴人その他の相続人全体としての出費は、前記会社に対する現物出資や控訴人による買い取りよりも低くなる。結局、控訴人は、久敬から本件土地の贈与を受けとることが事業の承継の最良の方法であった。

控訴人と久敬は、このような検討の結果、控訴人が久敬の事業を一部承継して事業主となって不動産賃貸業をするために、本件土地を久敬から控訴人に贈与する方法を選択したのである。

(三) 資産の贈与を受けることは、それ自体は無償行為であるが、事業でないとはいえない。株式会社や公益法人が贈与契約によって不動産を取得した場合は、業務に関するものというべきである。贈与による不動産の取得を贈与であるという理由のみで業務に当たらないと考えることは相当でない。

相続によって取得した資産についての登録免許税は相続に随伴するものであって、業務について生じた費用ではないから、所得の計算上必要経費は算入されない。しかし、贈与は、当事者の一方が他方に財産を与えることを目的とする契約であるから、相続とは明確に区別する必要がある。久敬は、本件土地を控訴人の営む不動産賃貸業に供することを目的にして贈与契約を結んで、控訴人に対し贈与し、控訴人は、受贈した本件土地を事業用資産として活用しているのである。これは、控訴人にとっては、事業計画をもって事業用財産を購入するのと同じであり、相続により偶発的に取得した財産を相続人が事業の用に供するのとは基本的に異なる。

不動産を取得して不動産賃貸業を始めた事業者が、売買その他対価を支出して土地を取得した場合にはその取得代金だけでなく取得にかかる登録免許税、不動産取得税の負担が必要経費として処理されているのであるから、贈与によって取得した場合も事業の用に供したときは同様に必要経費として認められるべきである。登録免許税が必要経費に該当するか否かは、その資産が業務用であるか、非業務用であるかによって区別されており、業務に供される資産の登録免許税は必要経費に算入されることになっていて(所得税基本通達三七―六)、非業務用資産の登録免許税は当該固定資産の取得費に算入されることになっている。(同通達三八―九)。したがって、登録免許税が必要経費であるか否かは、その不動産が贈与により取得されたかどうかではなく、業務用か否かによって決せられるのである。不動産取得税についても同様に解すべきである。

控訴人が久敬から贈与された本件土地は、控訴人の不動産賃貸業の業務用資産であるから、その登録免許税、不動産取得税は必要経費と見るべきものである。」

第三争点に対する判断

一  当裁判所も、控訴人の主位的及び予備的請求はいずれも理由がないと判断するが、その理由は次のとおり訂正、付加、削除するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第三争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決六枚目裏一〇行目から末行にかけての「証拠(乙一、原告本人尋問の結果)」を「証拠(甲二ないし四、五の1・2、六ないし八、九の1ないし15、一三、一四の1ないし4、原審における控訴人の供述)」と改める。

2  同七枚目表五行目の「しかし久敬は、」の次に「医学概論、フランス哲学を専門とする医学博士、文学博士で大学の名誉教授であり、その後の日本学士院会員に推挙されており、」を付加する。

3  同七枚目裏二行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「2 久敬及び控訴人は、控訴人が久敬の営む不動産賃貸業の青色事業専従者として経験を積むうち、右不動産賃貸業を学士院会員までつとめる高名な学者である久敬が事業主として控訴人に給与を支給してその実務を担当させるよりも、不動産を控訴人に移転して控訴人が事業主となって行うほうが、賃貸借を巡って紛争が生じた場合でも久敬の名声を傷つけず、かつ賃貸借人との交渉も積極的にできると考えるようになった。

久敬及び控訴人は、久敬が高齢であるためいずれ相続が発生することは避けられないが、久敬の所有する不動産が多くて、不動産の市価が上昇傾向にあったので、その相続税評価が高額であると見込まれ、相続人に課税される相続税が高額になると予想され、しかも、偶然の時点で相続を生じるので、それを待っていては適切な対応を採ることができないため、相続以外の方法で久敬の所有する不動産を計画的に控訴人に移転することが必要であると判断した。

控訴人は、税理士西田安男から、<1>控訴人が久敬から不動産の贈与を受ける方法によれば、高額の贈与税を課税されるが、それでも平成二年当時は不動産の贈与税評価の路線価が時価よりも安価であると考えられていたので有利であること、<2>控訴人が久敬から不動産を買い受ける方法による場合は、不動産の時価評価による買受代金が非常に高額でその調達が大変であり、久敬に課税される譲渡所得税及び売買代金を残して久敬が死亡した場合に相続人に課税される相続税の合計額が高額であること、<3>久敬が不動産を現物出資して株式会社を設立し、株式会社が不動産賃貸業を営む方法による場合は、不動産が会社の所有となり澤瀉家の個人財産ではなくなる上、現物出資に伴い久敬に課税される譲渡所得税及び久敬がその株式を残して死亡した場合に相続人に課税される相続税の合計額も高額であると説明を受けた。

そこで、久敬及び控訴人は、贈与税として納付する金員の調達できる限界内で、久敬から控訴人に不動産を贈与する方法を選択することにした。」

4  同七枚目裏三行目の冒頭の「2」を「3」と改め、同六行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「控訴人は、久敬から、不動産賃貸業の経営とは別に相続財産の前渡の趣旨で、同時に本件土地以外に、久敬の所有する京都市北区衣笠開キ町の宅地建物、滋賀県蒲生郡蒲生町の雑種地、長野県北佐久郡軽井沢町の原野も贈与を受けた。」

5  同七枚目裏七行目の冒頭の「3」を「4」、同八枚目表二行目の冒頭の「4」を「5」、同五行目の冒頭を「5」を「6」と改める。

6  同八枚目表七行目の「原告の弟及び妹に対しては」から同八行目までを「控訴人は、従前の約束に従い、共同相続人である弟には代償金約一億八三〇〇万円、妹には代償金約九六〇〇万円をいずれも長期の分割で支払うことを約した。」と改める。

7  同九枚目裏三行目の次に行を改めて、次のとおり付加し、同七行目の冒頭の「4」を削除する。

「4 ところで、所得税法においては、ある支出が必要経費として控除され得るためには、それが客観的にみて事業活動と直接の関連をもち、事業の遂行上直接必要な費用でなければならないというべきである。

先にみた事実によれば、本件費用は、控訴人が実父久敬から本件土地の贈与を受けたことに伴い生じた費用ということができる。そして、贈与は、財産の移転自体を目的とする無償行為であるから、贈与によって資産を取得する行為そのものは、所得を得るための収益活動とみることはできないというべきである。控訴人が本件土地の贈与を受けたことが、不動産賃貸事業の用に供する目的であり、その後同事業の用に供されたからといって、贈与によって本件土地を取得した行為そのものの性格に変化はなく、収益活動となるものということはできない。」

8  同一〇枚目表三行目から同裏三行目までを次のとおり改める。

「三 控訴人は、久敬が本件土地を控訴人の営む不動産賃貸業に供することを目的にして控訴人に対し贈与し、控訴人が受贈した本件土地を事業用資産として活用しているのであるから、控訴人にとっては、事業計画を持って事業用財産を購入するのと同じであると主張する。しかし、先にみた事実によれば、控訴人は、久敬から控訴人に対する本件土地の贈与によって、控訴人が事業主として本件土地を用いて不動産賃貸業を営むことになったというものであるが、これについては、久敬と控訴人は、久敬が高齢であるためいずれ相続が発生することは避けられないが、久敬の所有する不動産が多くて、不動産の市価が上昇傾向にあったので、その相続評価が高額であると見込まれ、久敬の死亡の場合に相続人に課税される相続税が高額になると予想されるという状態のもとにおいて、財産を久敬から控訴人に贈与して移転したものであり、事業用の財産の移転であるというのに無償かつ一二億円もの贈与税を納付して行われたというのであるから、久敬の死亡によって生じる相続税の対策として行われたとみるほかはなく、本件土地がたまたま久敬が所有する前から本件贈与当時まで引き続き賃貸されていたため、久敬から控訴人に贈与されたのに伴い賃貸人の地位が必然的に控訴人に移転されたのであり、主たる目的は久敬から控訴人に対する相続財産の前渡であるというべきである。したがって、久敬から控訴人に対する本件土地の贈与が賃貸人の地位の移転を伴い、控訴人が不動産賃貸業の事業主になることを予定されたとしても、本件贈与をもって売買その他対価による不動産の移転と同様に解することは相当でなく、むしろ本件贈与は、久敬所有の本件土地を対価の提供を伴わないで推定相続人である控訴人に移転させたという点において相続に類似するというべきである。そうだとすると、控訴人が本件土地に関して負担した登録免許税、不動産取得税は、所得税法四五条一項一号所定の家事上の経費に該当し、同法施行令九六条一、二号所定の業務の遂行上必要であった経費には該当しないと解するのが相当である。

控訴人は、贈与税の負担が約一二億円と高額であるが、本件土地を会社に対し現物出資する方法や控訴人による買い取りの方法よりも全体としての税負担が低くなるので、久敬から本件土地の贈与を受けることが事業の承継の最良の方法であったから前記登録免許税、不動産取得税は、必要経費に該当すると主張する。しかし、先に述べたように、本件贈与は、久敬の死亡によって控訴人その他の相続人が高額の相続税の負担を強いられるおそれがあるという状態にあったことを無視しては考えられないことであり、控訴人が約一二億円の贈与税を負担しても事業の承継をする最良の方法であったと考えたとしても、相続財産の前渡を目的として行われ、相続に類似するものであり、控訴人が不動産賃貸業の事業主になることは副次的なことであるといわざるを得ないから、本件贈与に関する登録免許税、不動産取得税を不動産所得における業務の遂行上直接必要な経費と認めることはできないというべきである。

控訴人は、登録免許税、不動産取得税が必要経費に該当するか否かは、その取得した資産が業務用であるか、非業務用であるかによって区別されていると主張する。しかし、これは、対価を支払って得た不動産の登録免許税、不動産取得税が経費となり得ることを前提にして、その適用範囲を業務用であるか、非業務用であるかによって区別しているものであるから、贈与の場合には妥当しないものというべきである。

控訴人は、不動産賃貸業を始めた事業者が、売買その他対価を支出して土地を取得した場合にはその取得代金だけでなく取得にかかる登録免許税、不動産取得税の負担を必要経費として処理することが認められているのであるから、贈与によって取得した場合も事業の用に供したときは同様に必要経費として認められるべきであると主張する。しかし、先に述べたように、本件贈与は相続財産の前渡を目的として行われたものであるから、相続に類似しており、本件贈与に伴って控訴人が負担した登録免許税、不動産取得税を必要経費と認めることはできないのであり、取得した不動産を事業の用に供して収益を得たとしても、必要経費ということができないことは同様というべきである。」

二  以上の理由により、控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり、右と同旨の原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福永雅彦 裁判官 井土正明 裁判官 磯尾正)

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